最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)220号 判決
上告人 多田清一 外一名
被上告人 名古屋交通労働組合
右代表者執行委員長
一、主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人等の負担とする。
二、理 由
上告代理人の上告理由は末尾添附別紙記載の通りであり、これに対する当裁判所の判断は次の如くである。
第一点に対する判断
原審が論旨摘録の如く判示したのは正当であつて何等誤はない、原審は名古屋市交通局が独自の見解で除名を為し又は除名の効力を左右し得るものといつて居るのではない、組合がその自主性によつて為した本件除名に基く解雇を継続するか或は取消すかは本件仮処分の有無に左右されるものでなく交通局独自の見解によつて決すべきものであるというだけのことである、何等所論の様に組合に関する根本法規等に関係があるものではない。
第二点に対する判断
名古屋交通局が解雇を取消すか否かは本件仮処分の有無に関係ないこと前説示の通りである。「解雇を取消すかも知れない」というくらいのことでは仮処分の理由となり得ない。本件仮処分は「除名処分が無効である」という終局的の裁判をするのではない、只一応の疏明によつて仮りに一時除名処分の効力を停止するだけのことであり、全く当事者間だけのものであつて、第三者たる名古局交通局に何等影響を及ぼすものではない。原審が所論の如く判示したからといつて国民の遵法精神や、裁判の権威に毫も関係する処はない。
第三点に対する判断
原審が所論の如く判示したのは正当である。上告人は本件仮処分申立の様な理由で仮処分を求めるなら名古屋市を相手として解雇処分の効力一時停止の仮処分を求むべきであつた本件仮処分が右名古屋市相手の仮処分に先行しなければならない理由もないし、その基礎となるものでもない。
第四点に対する判断
論旨は自分のやり方の間違い(前段説示)を棚に挙げて裁判所の態度を攻撃するもので全く理由がない。
以上の如く論旨は総て理由がないから民事訴訟法第四〇一条第九五条、第八九条に従つて主文の如く判決する。
以上は裁判官全員一致の意見である。
(裁判官 長谷川太一郎 井上登 島保 河村又介 穗積重遠)
上告代理人の上告理由
原審判決は「本件仮処分は控訴人等の主張する解雇失業という著しき損害を避けるための必要な場合に該当せず、従つて仮処分の要件をみたさないから、控訴人等の申請はその余の点を判断するまでもなく失当なこと明かであつて、原審が控訴人等の申請を却下したのは結局において相当である」として控訴を棄却しているが、かかる判断は次の如く理由は不法不当であり法律解釈適用を誤つたものであり到底破棄を免れざるものと思料する。
一、本件控訴裁判所の判決は「しかし控訴人等の被控訴組合を相手方とする仮処分が第三者たる前記名古屋市交通局を拘束しないことはいう迄もないことであつて、たとえ控訴人等が右のような仮処分の裁判を得たとしても名古屋市交通局は、その独自の見解によつて控訴人等の除名を正当と認めるならば控訴人等主張のような労働協約をたてにとつて解雇の取消に応じないであろう」と判示しているが右名古屋市交通局がその独自の見解に依つて本件除名を正当と認めると云うことはあり得ない事である。何故なれば「日本の労働組合に対する極東委員会の十六原則」の第十項に「労働組合の組織を労働者自らによるその民主意志の表現及創意の手続にイニシアチーブ発揮の過程でなければならない。雇用者は労働組合運動の指導に当り得ず、又これに資金を提供することを得ない」とあり、又本件除名の為された当時施行の労働組合第二条には「本法ニ於テ労働組合トハ労仂者ガ主体トナリテ自主的ニ労働条件ノ維持改善其他経済的地位ノ向上ヲ図ルコトヲ主タル目的トシテ組織スル団体又ハ其ノ聯合団体ヲ謂フ」と規定されている。即ち労働組合の組合員は何人であるか、組合役員は誰にするか、組合員除名の理由を如何に規定するか、除名の手続は如何にするか、特定人を除名すべきか否か等のことは労働組合自体に於て決定すべきことであつて、使用者は之に容喙すべからざるものである。原審に於ける前記の如き判示は労働組合に関する根本法規の無知無理解に基き使用者たる名古屋市交通局に本件除名の正当不正当を認定し得る権限ありとする不法不当な判示である。
二、更に原審判決別紙は曰う「したがつて右のような仮処分の裁判があれば名古屋市交通局は控訴人等を復職させるであろうというのは控訴人等の独りよがりの希望的観測にすぎないものといわねばならない」と。
控訴人等の被控訴人を相手とする仮処分が第三者たる名古屋市交通局を拘束しないことは原審判決の謂う通りである。然し原審に於て本件除名は無効であると云う裁判をしたならば名古屋市交通局は解雇を取消すかも知れない。何故なれば法律的に名古屋市交通局を右仮処分が拘束はしないが、裁判所に於て控訴人等の申請する仮処分が認められたとするならば名古屋市交通局は解雇の原因たる除名が裁判にて効力を停止されているから解雇を取消しても労働組合の自主性を侵すことにならないのである。かかる措置に当ることが法令又は裁判所の判決に従う日本国民並にその信託を受けて国政を担当する官公吏の当然とるべき態度でなければならない。又裁判所の裁判は当事者以外の者に法的拘束力は持たないにしても正しいものであり尊重すべきものであると云うのが現在の我国々民の一般的感情であり所謂遵法精神のよりどころである。裁判所としてもその公正妥当な裁判を下しかかる国民的信義に副い遵法精神の昂揚を所期しているに違ない。然るに原審の判示は自らその判決の権威を疑うものでありかかる不当不法な判決は裁判所自らの権威を傷くるものである。
本件除名の効力を停止する仮処分の判決があつたとして上告人等が此の判決を名古屋市交通局を相手方として解雇の効力停止を求める仮処分申請をすれば好いのである。かかる申請を為した場合は名古屋市交通局は本件除名は不知である或は除名は正当であると答弁しても本件除名の判決は有力な疏明方法となるであろう。従つて原審の「たとえ右市交通局が控訴人等を復職させるようなことがあつたとしても、それは仮処分の効果としてではなく右市交通局自らの事情によるものである」と云うが如きは本件仮処分の意義の重要性に目を蔽い勝手なる揣摩憶測をたくましくする不法不当なる裁判態度なりと謂わざるを得ず。
三、原審判決は「控訴人等が右市交通局に復職するためにはどこまでも市交通局を相手取つて解雇の無効を主張し、必要とするときは市交通局を相手方として解雇の効力停止の仮処分を求むるべきである」と云うが、勿論上告人等の本件除名に対する窮局の場合の救済手段としてかかる必要を生ずる場合もあり得るが、かかる本訴の提起又は仮処分の申請を為したとして相手方たる名古屋市交通局は必ずや本件除名は我が関する処に非ずと答えるであろうことは訴訟法上の常識である。上告人等が被上告人組合を相手として本件除名の有効無効の裁判を求めその裁判を基として名古屋市交通局の上告人等の解雇に対する応度を見て民事訴訟法法上の救済を求むる場合に立ち至るとも本件除名の裁判をその前提とし、且つその有力な証拠方法又は疏明方法をなし得るのである。原審判決は本件仮処分の結果が名古屋市交通局を相手方とする解雇無効の裁判を求める基礎であることを忘れた誤断である。
四、原審判決は本件除名に依る上告人等の名古屋市交通局からの解雇が上告人等の生活に如何に悲惨な結果をもたらすかに目を蔽うている。裁判官には憲法法律に於て身分の保障があるので「他人の疝気は三年こらえる」式の態度で原審裁判官は本件に対したであろうが、本件除名が如何に不法不当であり第一審判決は良心的な裁判官であるならばかかる反動的な不公平な裁判を為し得ざるものなることは本件訴訟記録で明かなるにも拘らず、除名の実体に立入つて判断することなしに前記の如き理由に依り所謂門前払いを喰わすが如きは審理不尽の甚しきものと謂うべく仮処分制定の趣旨が那辺にあるか基本的人権の擁護を第一とすべき使命を忘却する不法不当な判決であつて到底破棄を免れざるものであることを確信する。
以上